071772 ランダム
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★☆自分の木の下☆★

★☆自分の木の下☆★

16.青い空、青い海

                                                                      ≪ララ≫↓
『楽しい夏休みにカンパーイッ!!!』
 カチンカチンとグラスの音が飛び交った。茜、椿、鈴菜の女三人と総司、浩也、優雅、晴貴の男四人が向かい合わせになって黒いクッションソファーに座っている。乾杯の合図と共に、ブラックリストメンバー達はグラスに入った飲み物を美味しそうに飲む。冷たい麦茶やジュースは暑い日にとっても美味しい。
 茜は、グラスに入ったオレンジジュースを一気に飲み込むと、ぷはぁ~と口を拭って、ご満悦に叫んだ。
「おいしい! 最高!! なんかやっと夏休みに入った気持ちになった!!!」
「茜ちゃん毎日アルバイト漬けだったもんね~」
 茜の隣に座っている椿が、うんうんと妙に納得していた。夏休みになって、もう二週間はたっている。しかし、学校がない分、茜は朝から晩までいろいろなアルバイトをはしごして忙しい毎日をおくっていたのだ。
「そりゃぁね! 稼ぎ時だから。し――かもッ! 普通ならあるはずの補習が一個も無いんだよ! 信じられない、学校行かなくてオッケー!!! 最高ッ。いっぱい稼げたよ~」
 ウキウキと嬉しそうに茜は体を前後に揺らした。今までに無い奇跡に嬉しさが爆発しているようだ。斜め前に座っている総司が微かな笑みをもらす。
「俺が毎日教えてやったんだ、その分の結果が出て当たり前だろう」
 総司は飼い犬をならすように、茜の栗色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「うう……ありがとうよ、総司。全教科四十点以上。信じられない奇跡だよ」
 総司に対して今までに無く素直に感謝する茜。担任の梅ちゃんなど、茜のテスト結果を知る否や目や鼻などから感激の汁を垂れ流して学校中を駆け回った。それもこれも全て総司のおかげなのだ。
 そんな茜を見て総司は、意味深に自分の額を指した。にやりと笑う。
「オマジナイ……したしなぁ?」
 ハッと咄嗟に茜は自分の額を押さえた。テスト前日に、オマジナイとか言って総司は茜の額にキスをしたのだ。しかも耳まで噛んできた。それを思い出し瞬間赤くなる茜を見て、ブラックリストメンバーが一斉に身を乗り出した。
「総ちゃん、茜ちゃんに何したの?!」と、笑顔の椿。
「きっと脳内が活発化するほど刺激的なことをしたのでしょう」と、一人だけ湯気の立つ湯飲みで茶を飲んでいた浩也。
「ふふ……それは惜しいことを見逃したわね。是非とも見たかったわ」と鈴菜。
「ひゃー、総司、最近よく茜に手を出すね~」と、驚きながらの優雅。
「なーんーでーやぁー!!! 何をされたんやー、茜ちゃん!!! 俺の茜ちゃんがあああああぁぁぁぁぁ総司の餌食にいいいぃぃぃぃ!!!!!!!」と、晴貴は頭を抱えて絶叫しが、だまれ、と総司に空のグラスで頭を殴られ、ある意味頭を抱えたまま痛さに固まって泣いた。かすれた涙声でウーウーと悶絶している。
「全部忌まわしき伊集院馨を遠ざける為だ。勝手に勘違いするなよ」
 何でもない様に背もたれにもたれ、偉そうに言う。
「そ、そうだよ! 変な誤解しないでよね!!」
 茜も総司に賛成して叫んだ。しかし、何故か顔が歪む。普通の顔を保つのに苦労するほど、茜は知らずに気持ちが暗かった。何を自分は動揺しているのか。不思議に思いながらも首を振って気持ちを改める。
「それより、海! 海だよ、海ッ!! やったね、最高! ペンション一泊!」
 妙なハイテンションで茜は叫んだ。そう、今日から一泊、海のリゾートを楽しむのだ。しかも泊まりで。
「椿さん、本当にこんな煩い集まりでお世話になっていいのでしょうか?」
 浩也が心配そうに椿に問う。椿は上機嫌で大丈夫だよー、と答えた。今日泊まる場所は、椿の父親が趣味で営業しているリゾート地である。つい三日前にブラックリストメンバー&隠れブラックリストの晴貴に旅行の収集がかかったのだ。
「煩いからこそのペンションなの~。ホテルでもよかったけど、ペンションのほうが自由に騒げるしね。もちろん無料☆ 茜ちゃん期末テストで頑張ったし、校長先生の地獄ツアーを免れたお祝いとして遊ぼうと思って」
 椿はかなりいい所のお嬢様である。というか、ブラックリストの中では茜以外は皆それなりのお金持ちだったりするのだ。
「つつつ椿~! 君はいい奴だ、うん」
 茜は無料と頑張ったお祝いという言葉に感極まって、涙を流しながら椿に抱きついた。
「やだなー茜ちゃん。こんな時だけ」
 にこやかに椿は返す。さりげに酷い。と、復活した晴貴が頭を摩りながら会話に乗った。
「テスト後迷子になってしもうて、未知の世界を彷徨っていたオレに椿ちゃんの招待状持った黒の背広服着た男が来たときは、黒いけど天使かと思ったよ~。おかげで家に帰れて、しかもまた迷子になられたら困るとかゆーて今日の朝、家にまで迎えにきてもろーて助かったわぁ。この車で」
「あ、そーか。今車の中だっけ? あまりに振動が無いからすっかり忘れてた」
 茜がカーテンを覗いて外を見た。外は普通の道路である。そして中を見た。かなりの広さのあるこの車内は、長イスが横に向かい合わせに並んでいて、その間にはテーブルまである。上を見れば綺麗なシャンデリアが飾られており、窓はカーテンで閉められているが明るい。運転席とも離れており、一見したら普通の豪華な部屋に見えるから不思議だ。
 運転手の運転技術が非常に高いのか、テーブルに置かれた飲み物がこぼれるどころか、揺れもしない。正に滑るように大きな黒い車は移動していた。






「うぷ……きもじわるぃ……」
 青い空、青い海、そして青い顔。茜は吐き気を堪えて入り口にしゃがみこんでいた。ペンションの玄関、木を基調とした建物だからか、木の匂いがする。
「茜ちゃん、乗り物に弱かったんだね」
 酔いの苦痛に脂汗をかく茜の背中を椿がさすった。その横を総司、浩也、鈴菜、優雅、晴貴が通って行く。
 揺れない車に乗って一時間後、茜は車酔いで苦しんでいた。急遽用意した酔い止めを飲んでみるが、水を何口飲んでも薬自体は飲み込めない。茜曰く、薬は今まで飲んだことが無いので喉が受け付けない、のだそうだ。どこまでも健康優良児である。その前に薬を買うお金が勿体無いらしいが。
 車を三時間乗った後、フェリーで三十分揺られた。どうやら島を買い取ってリゾート地にしたらしい。船の上ではもう精魂尽きて、イスにぐったりとしたままピクリとも動かない珍しい姿になっていた。船から下りてまた車で十分、やっとペンションに着いたのだ。
「ほう、なかなかいい感じじゃないか」
「そうね、広いし」
「空気入れ替えしときますね」
 先に入っていった総司達の話し声を聞きながら、茜は玄関を抜けてリビングへと入っていった。白のクッションに倒れかかり、唸りながら文句を言う。
「少しは心配を――……」
 総司はそんな茜に近寄ると、荷物を上に置いた。
「弱っている茜は見ものだが、何時間も見ていたら飽きてきてな。仕方なしにお前の荷物は俺が運んでやったんだ、それだけで感謝ものだろう」
「だからって上に――……」
 やはり覇気が足りない。語尾まで持たないのか、言葉が切れ切れだ。気のせいか、いつも立っている触角(髪の毛)も元気が無い。
「上が寝室になっているの。女子の三人部屋一つに男子の二人部屋二つね~」
 二階へと続く階段を上がりながら椿が皆に説明をしている。それぞれが自分の荷物を運び、二階へと移動していた。晴貴の荷物が大きすぎて危なっかしい。
「う――……」
 茜は自分も部屋に行こうと、もそりとあお向け状態から起きた。荷物を両手に持って立ち上がる。しかし歩き出そうとすると、ぐらりと平衡感覚がおかしくなり倒れそうになった。あっと体を堅くするが、肩にぶつかる衝撃あり、それを支えにして倒れずにすむ。
「あまえなぁ。気分悪い奴は大人しくしとけ」
 いつの間にか総司が後ろへと移動していた。自分を支えにしても尚ふらふらな茜を見て、仕方が無い、と溜め息を付く。
「いいか、暴れるなよ。そして死んでも吐くなよ」
「うえっ?!」
 言うや否や茜の足に手をかけ、そっと横倒しにする。腕中の茜の位置を微妙に調節して、上手く収まった所で歩き出した。茜は、落ちそうで怖くて反射的に総司の首にしがみついた。香水のいい香りがする。
 気が付けばお暇様抱っこされているこの悩むべき事態に混乱するが、酔いの苦しさの方が勝った。階段を上がって行く一定のリズムに揺られながら、とにかく落ちないように必死に総司にしがみつく。
「あーら……まぁ」
 二階に上がりきると、廊下に出ていた鈴菜が奥様のような反応で驚いて見せた。楽しそうに目を細めて寝室を指す。
「女子の三人部屋はここよ」
「そうか」
 奥の部屋からは晴貴と優雅の話し声が聞こえた。すると女子部屋の隣は浩也と総司の部屋なのだろう。ずり落ちてきた茜をもう一度抱えなおすと、総司は鈴菜の前を通り扉が開いている三人部屋に入った。
「あらあら、まぁまぁ……」
 またもや奥様口調。今度は椿だ。悪乗り笑顔で奥のベッドを指す。
「茜ちゃんのベッドはこれだよ~」
「………そうか」
 大人しくベッドに寝かされた茜は、目を閉じた。弱りきった小さな声で、部屋から出て行こうとする総司に「ありがとぅ」とお礼を言う。椿は掛け布団を茜にかけた。
 次に二人分の荷物を持って上がって来た総司が部屋に入ると、茜は既に寝ていた。酔いのせいもあるがバイト三昧で疲れてもいたのだろう。





「茜ちゃん、お昼だよ~。食べれそう?」
「うー……今日のお昼はじゃくれが産む卵と……むにゃむにゃ………バイト先の売れ残りが冷蔵庫にィ―――………お昼ッ!!!!?」
 今日のお昼は冷やし中華だった。茜はこっそりきゅうりだけを取って、猛烈な勢いで食す晴貴に食べさせる。それを見ていた総司が、静かに威圧する目線を投げかけた。
「おい、キュウリぐらい食え」
「びょ、病人に全てを食べることを要求しないでよ」
「元気じゃないか」
 確かに元気だ。今の時間は十三時三十分。お昼としては遅いがぐーぐー寝ていた茜に配慮したらこの時間になったのだ。お昼ッと叫び起きた茜は、ダッシュで下まで降りてお昼に齧り付いている。
「そういえば茜さん、あのジャクレはどうしてきたのですか?」
 卵を飲み込んで、浩也が言った。ピクリと総司が反応する。
「ジャクレは養鶏所にたくしてきたよ」
「それが最善の選択だ」
 たくした養鶏所はじゃくれを捕まえた養鶏所でもある。そんなことは露知らず、養鶏所の笑顔が優しいおじさんは快く預かってくれた。楽しく遊んでおいで、とお菓子までくれた。
 冷やし中華を食べ終わり、冷やし麦茶を飲みながら七人は今後の計画を話し合った。鈴菜が取り仕切る。
「じゃぁ、四五分後に海でいいわね」
「やっぱり最初に海で泳ぎたいよねッ!!! 早く着替えて、みんな!!」
 自分は鼻息あらくカメラを磨く優雅。海自体は出たら直ぐ前にあるが、海水浴所には少し歩かなければいけないらしい。茜は絶対水着の上から服を着ようと思った。
 お昼ご飯を遅らせた罰として、食器を洗ってから二階に行くと、廊下の端で晴貴がしゃがみこみながら嬉しそうに手招きをしていた。真中の部屋の扉は開けっ放しで、声が漏れている。
「水着じゃぁ、日本刀の隠し場所がありません……」
 浩也の嘆き悲しんでいる声だった。その部屋の様子をちらっと盗み見しながら、茜は奥でニヤニヤしている晴貴に近づいた。
「何? 変な顔して」
「しッ。いーもんあるねん。茜ちゃんにだけ特別に貸してやるからな! ネット通販で買ってな、お買い得六十%セール二万九千円!!! ほら、これッ!!!!!」
 なに、二万九千円!? そんな高価なものは一体なんなのだろう、と茜は晴貴が大事そうに抱えているものを見た。透明のビニール製で、昆布みたいなのが付いている。頭にかぶる頭巾の形をしており、口の部分にはゴム状の加え口が。そこから飛び出している太いストローと、鼻の部分からは二本飛び出している細いストローが、頭上で結い上げられている。耳の部分には異様な形をした黒い昆布のような柔らかいものが付いていた。
 晴貴は一緒に付いていた取り扱い説明書を意気揚揚と読んだ。
「このすもぐり頭巾を被ったら、海の中を自由自在!!!! 鼻と口に通ったストローが、体を巡りいつまでも新鮮な空気を貴方に供給。さらに耳に付いた特殊えらえら昆布で、泳ぎも自由自在!!!! 是非この機会にすもぐりを試してみてください………。茜ちゃん、これで深海に潜ったら未知のワールドを見れるで!!! 足の生えた幻の深海魚、スポッドライトフィッシュを見れる! 海に漂う深海魚のスネ毛!!」
「え!!! あの水族館にいた、深海魚!? あの足を使って物凄いスピードで走る深海魚を見れるの!!!!!!!?」
 正解は、スポッテッド ラットフィッシュだ。未だに足が生えるという総司の嘘に騙されている純粋なアホ二人。
「そうやそうや! 二枚一組やから、一緒に見れるで!!! 絶対捕まえような!!!!」
「凄い凄い凄い凄い!!!! 感激!!!!! ありがとぅ!」 
 茜は興奮して晴貴に飛びついた。あまりの勢いに、ふたりして倒れこむ。そして二人して無邪気に笑いながら、いかに素晴らしく凄い魚なのかを想像力を働かせて語った。
「罠をしかけたら捕まえれるかもよ、縄と網と………」
「まかしてや、茜ちゃん!! その辺もちゃんと用意してきたで!!!」
「さすが晴貴!!!!」
 だからあんなに荷物が大きかったのだ。二人は本当に嬉しそうに笑った。しかし、残念なことに、深海魚も、そしてすもぐりセットも、確実に騙された結果だった。




「あのなぁ、誰も海水浴場で闇討ちなどしないから、その日本刀は諦めろ」
「そうですが……もう自分と一体しているというか、これがなくては落ち着かないというか……」
「あ、何抜刀してんだ」
 総司の前で、妖しく光る日本刀を撫でて、浩也は切なげに溜め息をついた。嘆かわしい、嘆かわしいと呟く。
「海だ、錆びるぞ」
「わかっています。せめて最後のお別れを……」
 今生の別れみたいな言い方だ。総司は呆れながら、そろそろ着替えようと扉を閉めに行く。取っ手を手にした所で、廊下の端に茜と晴貴がしゃがみこんでなにやら嬉しそうに話しているのに気がついた。
 ぴったりとくっついて、一つのビニール製のものを二人で観賞している。茜は、何がそんなに嬉しかったのか、嬉しそうに両腕を広げて晴貴に抱きついた。横倒しになりながら、無邪気に笑っている。晴貴の顔は照れと興奮で赤い。好きな人に抱きつかれたら、そりゃぁ照れるだろう。
 ふと、自分はそのように抱きつかれたことが無いな、と思った。茜の行動は単純だ。怒ったらそっぽを向いたりケンカをしかけて来て、嬉しかったら歓声をあげて抱きつく。それは男でも女でも関係ない。晴貴のように日頃から茜が好きだと言っている人物にまで抱きつくのだ。
 しかし、自分の場合だけ別だ。嬉しくても簡単に心を許してはいないような気がする。ふと、この前偽デートのお礼に十字架のネックレスをあげたのを思い出した。茜はネックレスを握り締め、下を向いていた。何故素直に喜ばないのだろう、と不思議に思ったのを覚えている。単純に笑顔を見たくて渡したら、逆に悲しそうな顔をされた。何となく期待していた反応とは違って、視線を合わせようとしない茜にむかついて、何かしてやろうと思った。そんな軽い気持ちでキスをしたから、その日から茜は総司に前よりずっと警戒している。抱きつくなど、ありえないのだろう。
 結局自分のせいか。
 総司は自嘲の笑みを浮かべ、そっと扉を閉めた。別に抱きつかれようが逃げられようが、どっちだっていいじゃないか。静かな怒りを抑えて、水着に着替えようと振り向いた。振り向いて凍った。
「な………にッ……!!!!」
 頬が引きつる。何回瞬きをしても、何回頭を振っても、視界に眩しく写る赤い布は消えない。浩也が動く度にピラピラと波打つ。
「何、扉の前で固まっていたのですか? 先に着替えちゃいましたよ~。下に行ってお茶でも飲んできますかね」
 浩也が唯一着ているのは、赤いふんどしだ。浩也はテレビでの相撲試合でしか見たことが無いようなふんどしを普通に着ていた。細見の浩也が着ていると、不思議な感じだ。いや、それ以前にふんどしは有り得ないだろう、ふんどしは。浩也はベッド下のカーペットに正坐をして、白く長細い布を畳みだした。
「もももももしかしてそそそそっそれは………!!!!!!」
「はい? 下着ですが何ですか」
 やっぱり――!!!!? 今脱ぎ終わったふんどしだ。
 浩也の和服の下はふんどしだったのだ。学校にふんどし。遠足にふんどし。いつからふんどし? いくら和を愛するからって、今時それは無いだろう。有り得ない、有り得ない、有り得ない!!! 
「そ、その今着ている赤いのは………」
 ごくり。生唾を飲む。
「今から海に泳ぎに行くのだから水着にきまっているでしょう」
 またまたやっぱり――!!!!? 総司には色が変わっただけとしか見えない。イヤ、どことなくツヤツヤした生地で出来ているような……。じっと眺めると気分が悪くなってきた。何故男の、しかも友人のふんどしチラリズムを眺めなくてはいけないのだ。前に不恰好にたれている布に達筆で書いている「漢」の文字も見ない振り。ちゃんと油性なのだろうか。
 扉の前で立ち尽くす総司の元へ、下着を畳み終わった浩也は、立ち上がって近寄って来た。赤いふんどしが波打っている。ひらひらひらひら………。
「ち、近づくなー!! 違う違う、出るな、その格好で出るな―――ッ!!! 捕まる、捕まるぞ!!!!」
 警察が来る、通報される!!! わめき散らしながらふと思った。着替えシーンを見ていなくてよかった。
「総司? 煩いわよ。ちょっと開けてちょうだい。ジローいるー?」
 鈴菜の声だ。扉をノックしている。
「おや、何でしょう。ちょっとどいて下さい」
 総司が一瞬固まった隙をついて、浩也が扉を開けた。総司の停止の声も届かない。ふんどし姿の浩也が廊下にあらわれる。鈴菜がじっとその姿を見つめた。
「やっぱり、こうなるのじゃないかと思っていたのよ。はい、これ。普通の水着。そんなので泳いで、ずれたらどうするの。ちゃんと着てね、じゃ」
 鈴菜が白い紙袋を浩也に渡して去って行く。扉を閉めた浩也は琥珀色の瞳を潤ませて、悲しげに呟いた。
「日本刀の次はふんどしも……何て嘆かわしい、何て切ない………」
「日本刀の時みたいにさするなよ、撫でるなよ、嗅ぐなよ!」
 普通、嗅ぎはしないだろう。なれない、すかすかする、など文句を言いながら、浩也は普通の格好になった。その姿に総司はほっと安堵の溜め息を付くと同時に、とてもやるせない気持ちになった。何だかとても疲れた。
                                                                     ≪ララ≫↑

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【作者一言:ララ】とうとう、かねてから書きたかった、でも抑えていたふんどしネタを書いてしまいました。すみません……(‐∀‐lll)やっちゃった。


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